一日を二倍に

 さて、いよいよ十二月になりました。十二月は師走というぐらいですから、何となく気忙しくなります。

いそがしいとは、漢字で「忙」と書きます。立心偏に亡うですから、心を亡うことです。そういえば、「忘れる」という文字も「心を亡う」と書きます。

いずれにしろ、あまりいいことではありません。多忙をきわめて時間に追われている人が、一日を倍にすることはできないものかと思うことがあります。

そんなこととお思いになるお方もおいででしょうが、それができるのです。一日を二倍にする方法を考えた人がいます。

 大変人気のある油絵の画家がいました。絵の注文の多いのは勿論のこと、そのほかに講演だ、対談だとひっぱりダコになりまして、からだがいくつあってもたりない。

第一肝心の絵を落ち着いて描くことができない。ホトホト弱ったあげく、大変いいことを思いつきました。一日を二日にする方法です。

 どうしたかと申しますと、茶室をつくり、そこにひと時静かに坐ることにしたのです。

 それは、中国の唐代の詩からヒントを得たのです。

 「只、ここに坐れば、一日は両日なり」

という詩です。そして、この茶室を「両日庵」と名付けました。

 静かに坐り、心を落ち着ける。そうした時を持つことができれば、一日は二日の値打ちがある。

つまり、時間を量から質へと高めようということなのでしょう。

 私達も、多忙をきわめた時、「両日庵」のことを思い出して、工夫してみましょう。なにも、茶室や坐禅室まで作る必要はありませんが、

心の中に「両日庵」を建てることはできると思うのです。第一只でできます。もっともすぐ消えてしまいますがね。

 どうか長続きさせて、堅固な「両日庵」を心の中にお建て下さいますように。